指先とハンドクリーム

食べたり読んだり日記を書いたり

日記:2月13日〜16日

2月13日

朝一で耳鼻科へ。Googleのレビューで「とにかく優しい」と評判の病院を事前にチェックしていたのだ。「優しいだけ。かなり待つし処置も遅い。」と辛口なコメントもあったが、ただでさえ怖い場所なので先生は優しいのが一番だと思う。病院に着くと評判なだけあってすでにたくさんの人が待っていた。待っている間に、左耳がほとんど聞こえなくなっているような気がした。多分子供の声が響いて耳鳴りがしているのかもしれない。

先生に左耳を診てもらうと、「おお!」と言って意気揚々と掃除を始めた。ガッッ…ゴソリ。という音と共に部屋の音全てが鮮明に聞こえるようになり、思わず「聞こえるっ」と言ってしまった。取れたものを看護師さんが見せてくれる。絶対に誰にも見せられないような、この世の終わりのようなとんでもなくおそろしい塊がガーゼの上にあった。ドン引き。どうやら耳垢を奥に押し込んでしまい、取れないために耳の中を傷つけて耳垂れが出ているようだった。先生は笑いながら「細かいのも全部取っちゃうから」と掃除しては看護師さんが持っているガーゼの上に置いていく。私も安堵し、掃除されながら微笑んでいたが看護師さんだけは真顔だった。そりゃそうだ。キレイな看護師さんにあんな汚らしいものを持たせて申し訳ない。全てきれいになってから抗生物質を塗ってもらい、病気ではないので聴力に問題は無いと分かって安心した。

帰り道、なんでもない顔をしながら頭の中では塊が取れた時の気持ちよさを何回も思い出していた。あんなにスッキリしたことが今までにあっただろうか。

昼は残りのカレーを食べて出勤、仕事のミーティングに参加した。そのときも耳掃除の余韻は続いており、帰り道も晩ご飯を食べている間もずっと頭の中では塊が取れた瞬間のことを思い出していた。眠りにつくまで思い出していた。

 

2月14日

7時半に起きる。家事を済ませる。天気も良く、お給料も入ったのでルンルン気分で家を出る。久しぶりに黒髪にしてもらいたくて美容院へ。今よりも短いショートヘアにしてほしいと美容師さんに要望を伝えると、見せてくれたような形にするとえりあしが浮いちゃうから、刈り上げないといけないと言われた。か、刈り上げ…?いやそれはちょっと待ってください、と言ってちょっと待ってもらったが、他にしたい髪型もなかったのでじゃあそれでお願いしますと小さい声で言う。人生初のバリカンだった。私はワカメちゃんになってしまうのか。おしゃれ黒髪ショートにしたかったのに。

美容師のAさんはちゃんと可愛くしてくれた。果たしてこれが似合っているのかよく分からないしえりあしは野球部のそれだったが、いいじゃん。と思えた。新しいゆきこだった。「とにかくタイトに仕上げてね。ウェットな感じで。持っているバームでもいいし、オイルでもいいからつけたあとにブラシじゃなくてコームで梳かして。」というAさんのアドバイスを忘れないように頭の中で繰り返す。ウェットでタイトでコームで梳かしゃあいいんだな。

茶店に入りピラフを食べて腹ごしらえをした。「せいいっぱいの悪口」はもうすぐ読み終わってしまいそうで寂しい。

今日はまだまだ楽しみがある。百貨店に行き、Tさんにあげるチョコレートを片っ端から見た。彼はチョコが大好きだからお上品に数粒入っているものよりたくさん食べれるやつがいいなと思ってそんなに高くないチョコを2つ買った。すごく喜びそうだ。

この前テスターを試していたオレンジのアイシャドウと、ちゃんとAさんの言うとおりにするためにコームを買って帰った。散財した。

帰ると、私の姿を見るなり嬉しそうに近づいてきて刈り上げたところをサワサワされた。今日はちゃんと伝える日なので「Tさん大好きやで」と言ってチョコを渡す。ウワー!と叫んだあと踊っていた。そんなに喜んでもらって私も嬉しい。すぐに全部開けて嬉しそうに食べていた。テーブルの上にビリビリになった包装紙やリボンが散らかっていて可笑しかった。せっかく可愛いラッピングなんだからもうちょっとゆっくり開ければいいのに。今日はすごくいい日だった。

 

2月15日

8時に起きる。久しぶりにコーヒーを淹れた。せっかく髪もきれいにしたし新しいアイシャドウも使ってみたいし、どこかへ行こうかなと思ったが今日はすごく寒いらしい。冬は長くて、2月にもなると今までの冷えが蓄積しているのか動きが鈍くなっている気がする。まぁでも冬は動物もじっとしているし、私もじっとしていいのかもしれない。窓の外を眺めると雪がちらついていて凍えるほど寒そうだった。今日は家にいることにする。

いつもより丁寧に家事をしたあと、来月予定している一人旅の宿を予約した。節約旅なので、2日の連泊で1万2千円というリーズナブルなところ。宿泊が目的ではなく、朝から晩まで喫茶店を巡る予定で、宿には夜戻って寝るだけだと思うので全然良い。その頃には今より少しは暖かいのだろうか。

 

2月16日

寒くて起きられない。熱々のコーヒーを淹れて暖をとる。1時間だけ仕事をしてからTさんが作ってくれたパスタを食べて出勤。家を出る前にカイロをくれた。空気が冷えっ冷えだ。

黒髪にしたことを、みんながちゃんと反応してくれて優しいからちょっと気を遣う。お店で1番仲が良いと勝手に思っているSさんが「髪触っていい?」と聞いてきて、戸惑いながらいいよと答えると「ちゅるんちゅるんやん〜ふふふ」と言いながらしばらく私の髪を梳いていた。

髪。髪を触られるのは恋愛に関わらず私にとって特別なことだ。美容院を除くと、髪に触れる人物はごくごく限られる。まず、親しくも無い人の髪を触ることは無いし触られることもない。それでもふとした時に髪に触れられたことがある。

数年前、お店で悔しい思いをして泣いてしまった私を店長が慰めてくれた。そのとき、涙と汗でぐしゃぐしゃに張り付いている私の髪を耳にかけながら話を聞いてくれたのだった。あの時の仕草や表情は今思い出してもジンとする。お母さんが小さい子供にするような、大きい優しさがあった。

誰かが髪を結び直してくれた時。ふと前髪を触られた時。この人は私のことが嫌いじゃ無いんだなと思う。

一緒に暮らしているTさんはしょっちゅう髪を触ってくる。猿が仲間同士で毛繕いをする感覚に近い。それこそコロナになって、他人に触れること自体が無くなっていたので、Tさんでもない、家族でも無い人に髪を触られるのはすごく久しぶりだった。Sさんが去った後で「彼女と私は仲良しに違いない」と心の中で言う。嫌いな人の髪を触るもんですか。

仕事は順調で何事もなく終える。朝と夜では客層が違ってちょっと疲れた。もっと肩の力を抜いて接客してもいいかもしれない。

帰り道スマホを見るとTさんからメッセージが届いていて「3日分の食材まとめて買ってきた!」「明日用のエビ漬け置き」と下処理されたエビがたくさんジップロックに入っている写真が送られていた。すぐに返信する。明日はエビが食べられるぞと嬉しくなった。帰ってお風呂に入ってもすぐに体が冷たくなってしまう気がする。毛布にくるまって眠る。